【事業継承論】ファミリービジネスと就活?「違い」を知れば人生が変わる

「事業継承は自分と関係ない」と思ったあなたへ

「なぜ、自分の就活はうまくいかないのだろう」。このように悩んだことがある学生は少なくありません。特に地方から首都圏の大学へ進学し、就職活動に臨む学生たちの中には、価値観の違いに戸惑う人も多いといいます。

専修大学経営学部で「事業継承論」を担当する三宅秀道先生は、この就活の壁を、事業継承やファミリービジネス、そして日本社会の歴史的な文化背景から解き明かします。

就活に潜む「地域文化」の違い

「事業継承」と「就職活動」について、三宅先生にインタビューしてみました。一見関係のなさそうな2つのテーマが、実は私たちの生き方を見つめ直すヒントになるのです。

(以下、三宅先生)

学生の就職面接での答えに地域による価値観の違いが表れることがあります。

例えば「これまでの人生で特に頑張ってきたことは何か」という質問に対して、ある沖縄出身の学生は「先祖の墓参りです」と答えました。嘘かと思いますが、これは実話です。地域のコミュニティで年長者と協力して伝統的な儀礼を執り行うことに誇りを持っていたその学生は、自身の強みをアピールしたつもりでした。

しかし、企業の視点は異なります。企業は学生が学業やスポーツ、文化活動などで困難を克服し、自己研鑽を重ねてきた経験を知りたいのです。将来、社会人として自律的に能力開発に取り組める人材かどうかを見極めたいのです。

この価値観を理解する上で、近代以前の農業社会で歴史的に形成されてきた文化の視点が大切です。そもそも地方のファミリービジネスのような、周囲と協調して生業を営む感覚の方が、人間の進化のプロセスで獲得された本能に適合的なのです。

人類は長い狩猟採集時代を通じて、集団での協力を通じて生存してきました。狩猟採集社会では、コミュニティのチームから疎外されることは、即ち生存の危機を意味します。そのため人間には、競争に対する根源的な警戒心が本能として組み込まれているのです。

特に日本の場合、この協調性重視の傾向は農耕社会でも強化されていきました。稲作は集団での水管理や共同作業が不可欠です。狩猟採集時代から受け継いだ協調性への指向は、稲作文化とも相性が良く、より強固な倫理観として定着していったと考えられます。

しかし、産業革命以降の近代化の過程で、特に都市部では異なる価値観が台頭してきました。都市型の競争社会は、人類の歴史から見ればごく最近の産物です。それは人間の本能的な協調指向とは、ある意味で相反する面があります。

この観点から見ると、地方出身学生が就活で感じる戸惑いは、より根源的な意味を持ちます。それは単なる環境の違いではなく、人類の進化の過程で獲得された本能と、現代社会が要請する行動様式とのギャップから生じているとも解釈できるのです。

事例で見る「地方」と「都市」の強み

たまに私の話を聞いて都市的な考え方が良い、地方的な考え方はいけないと受け取ってしまう学生がいるのですが、それは違います。

例えば、長野県のある町の栗菓子メーカーの事例があります。オーナー一族ならではの長期的視野からの経営判断が、事業の発展に貢献している好例です。美味しい栗菓子の名産地としてのブランド化にも成功している。これは伝統的な価値観と現代的な経営センスの見事な融合と言えるでしょう。

そして別の事例ですが、自分が創業家の子孫だからこそ将来この企業を継ぐと思い、自分の知らない経営などについて学ぼうとする方を知っています。血の繋がりがあるからこそ、そこに責任を感じて努力を惜しまない。これは一族で経営を行っていない都市にある企業では見ることがあまりありません。

人との繋がりが大切となる地方、能力を競い合い生き残る都市。それぞれに良さがあり、それを理解することが重要です。

また、講義を通じて地方出身学生たちの隠れた強みも見えてきます。受験産業などがあまりない地域で、独学的にコツコツ勉強して入学してきた学生には確かな地力があります。

「その努力の経験が、『自分なりの競争力構築を意識して経営学を学ぶ』という積極的な姿勢につながっていくのです」。

たまに地方出身学生から「就活にどう臨めばよいのでしょうか」という質問を受けます。

私は「自分が進もうとする業界で具体的にどのような役割を果たしたいのか、そこでどのように優れたパフォーマンスを発揮できるのか、という視点で自己アピールを準備することが重要です」と答えます。単なる協調性や従順さではなく、自身の強みや独自性を見出し、それを競争力として示せるよう準備することが求められますから。

未来を担うあなたへ

社社会のビジネスには、様々なバックグラウンドを持った多様な形態があります。それらを広い視野で、フラットな目で見てほしい。例えば小さなファミリービジネスを継承しようと考えている人が自分を卑下する必要は全くありません。

「そして、地方出身であることはデメリットではありません。」

むしろ、異なる価値観を理解できる強みになり得ます。重要なのは、自分が置かれている状況を客観的に理解し、それを踏まえて自己を表現できるようになること。それこそが、私の講義を通じて学生たちに得てほしいものなのです。

私の事業継承論では、事業継承についての基礎を説明した上でその歴史的背景を紹介、解説します。この背景や事例を紹介をした回のリアクションペーパーを確認すると複数の学生から「私も今日の講義で紹介されたようなことを親の実家で経験したことがある」だったり、「祖母が先生がおっしゃっていたような行動をしていた。」といった感想をもらうことがあります。

もちろん私の紹介する事例や枠組みを講義で聞くだけでも事業継承・ファミリービジネスについて理解を深めることが出来ます。しかし、それだけではなく受講者本人が振り返って私の考えを私の事例ではなく、学生自身の経験と照らし合わせる。

そうすることでさらに深い学びを得ることができる講義だと思います。そういうところを見ると、私から一方的に学生へ知識を伝えるのではなく、私と学生が一緒に作りあげる講義と言っても良いかもしれませんね。

もし私の話を聞いて興味を持ってもらえたらこの講義を履修してもらえると嬉しいですね。読者のみなさんと講義でお会いできることを楽しみにして待っています。

まとめ:就活成功のカギは「事業継承論」にあり

三宅秀道先生の「事業継承論」は、ファミリービジネスの学びを超えて、地方と都市、伝統と革新、協調と競争――そうした「異なる価値観の接点」を理解する講義です。また、就活にあったって様々なことを悩むでしょう。その悩みの解決のヒントは、この講義にあるかもしれません。あなたもぜひ、三宅先生の講義で「自分と社会のつながり」を再発見してみてください。


取材・文:佐々木優太
編集:水野七星・内山菜々子
写真:佐々木優太
取材協力:専修大学経営学部 三宅秀道先生