― 行動経済学から読み解くポイ活と企業戦略 ―
「【重要】あと3日で失効するポイントがあります」
「本日限定、ポイント20%還元!」
このような通知を目にした瞬間、思わずアプリを開いたり、購入ページを確認したりした経験がある方も多いのではないでしょうか。本来は今すぐ買う予定がなかった商品であっても、「せっかく貯めたポイントが失効するのはもったいない」「今使わなければ損をしてしまう気がする」と感じ、購買行動に踏み切ってしまうことがあります。
ポイ活(ポイント活動)は、単なる節約術として語られがちです。しかし実際には、企業が消費者の心理に働きかけるための、重要なマーケティング手法の一つでもあります。イントの有効期限や期間限定の高還元キャンペーンの裏側には、人間の意思決定の特性を前提とした、戦略的な経営判断が存在しています。
では、なぜ私たちはこれほどまでにポイントに惹かれてしまうのでしょうか。今回は行動経済学の視点からポイント制度を読み解くため、経営学部で応用経済学・企業経済学を担当されている小川博雅先生にお話を伺いました。

■「もらえないと損?」ポイントに惹かれる心理
―― なぜ私たちは、これほどポイントに惹かれるのでしょうか。私は普段、現金よりもクレジットカードを優先して使っていますが、「ポイントがつかないと損だ」と感じてしまいます。
小川先生
もちろん、「お得だから」という合理的な理由や、企業側の「顧客を囲い込む」という目的はあります。ただ、行動経済学の視点で特に重要なのは、人間が持つ「損失回避」という性質です。人は、「得をしたい」という気持ち以上に、「損をしたくない」という気持ちが強く働く傾向があります。
―― 「損失回避」というのは、どういうことでしょうか。
小川先生
ポイント制度が始まった当初は、「もらえてラッキー」という感覚でした。しかし、これだけ普及して「ポイントがついていて当たり前」になると、今度はポイントをもらえないこと自体が損だと感じられるようになります。
その結果、「使わないと損だ」「失効させたら損だ」という意識が強く働くようになっているのが、現在の状況だと思います。
―― 企業は、この心理をどのように利用しているのでしょうか。
小川先生
一つは、ポイントを貯めること自体が目的になるような「ゲーム的な感覚」、いわゆるゲーミフィケーションです。もう一つが、「心理会計」という考え方です。
―― 「心理会計」とは何ですか。
小川先生
理屈の上では、1ポイントは1円以下の価値しかありません。しかし、「頑張って集めたポイント」という意識が加わることで、実際の価値以上に高く評価してしまう傾向があります。
例えば、くじや抽選でポイントが当たる仕組みでは、ポイントの正確な価値が分かりにくくなります。企業側としては、単なる値引きよりも「価値があるものをもらった」と感じさせやすくなるのです。
■「値引き」より「ポイント還元」が選ばれる理由
―― その場で100円値引きされるのと、100ポイント還元されるのとでは、金額的には同じですよね。それでも、ポイントの方が得をした気分になるのはなぜでしょうか。
小川先生
これは「プロスペクト理論」を用いると説明できます。例えば、2万円の買い物では、支払うこと自体が大きな心理的負担になります。その状態で少し値引きされても、「損失が少し減った」と感じるだけで、満足度はあまり高まりません。
一方で、支払いとは別に「ポイントをもらえた」と感じると、それは「心の中の別の財布にプラスが入った」と認識されます。その結果、心理的な満足度が大きくなるのです。
―― 「マイナスが減る」よりも、「プラスが別に来る」方が嬉しいのですね。
小川先生
その通りです。企業はこの心理を利用し、単純な値引きよりもポイント還元を提示することで、より強いお得感を演出していると考えられます。
―― 「今だけポイント倍増」と言われると、つい焦って買ってしまうのも戦略なのでしょうか。
小川先生
期間限定という仕組みは、失効してしまうから使わなければならない、という「損失回避」を強く刺激します。また、普段の価格や還元率が存在することで、キャンペーン時の条件が際立ち、「今が明らかにお得だ」と感じやすくなる「おとり効果」が働いている可能性もあります。
■ ポイントとどう向き合えばよいのか
―― 私たちは、ポイントをどのように使えばよいのでしょうか。
小川先生
例えば、「安いから」と遠くのスーパーまで行き、結果的に時間やガソリン代を多く使ってしまうことがあります。それと同じようなことが、ポイントでも起きていないかを意識することが大切です。
「ポイントのために、本当は不要なものを買っていないか」「ポイントを貯めること自体が目的になっていないか」を振り返り、1ポイントはあくまで1円、もしくはそれ以下の価値だと冷静に換算して判断することが重要だと思います。
■ さいごに
今回のインタビューから、私たちがポイントに惹かれるのは意志の弱さではなく、「損をしたくない」「別枠で得を感じたい」という人間の心理的特性によるものだと分かりました。企業はこの仕組みを理解したうえで、経営戦略として活用しています。
だからこそ重要なのは、ポイント制度に振り回されるのではなく、その仕組みを理解したうえで使いこなすことです。「1ポイントは1円」という冷静な視点を持ち、他の支出と同じ基準で比較することで、より納得感のある消費行動につながるはずです。
取材・文:経営学部3年 小林花菜子
編集:経営学部2年 山吉璃咲