駅前や繁華街を歩いていると、「同じようなコンビニがすぐ近くに何軒もある」「なぜライバル同士がこんなに近い場所で競争しているのだろう」と思ったことはありませんか。
例えば、専修大学神田キャンパスの最寄り駅の一つである水道橋駅周辺や、生田キャンパス最寄りの向ヶ丘遊園駅周辺を見てみると、コンビニが特定のエリアに集中して出店している様子が確認できます。
利用者にとっては便利ですが、店舗側から見れば近くに競合店が増えることで顧客の奪い合いになるようにも見えます。それにもかかわらず、なぜコンビニは「密集」を選ぶのでしょうか。
今回は、ゲーム理論や応用経済学を専門とする専修大学経済学部の小川博雅先生に、その理由を伺いました。
ユーザーとしては、「あっちの店にないものがこっちで見つかる」といった利便性や比較をできる楽しさがありますが、店舗側の視点に立ってみれば、お互いにお客を奪い合ってしまうようにも見えます 。
「離れた場所に出店したほうが、広い範囲の顧客を独占できて効率的なはずだ」と考えることもできそうです。
なぜ彼らは、あえて「密集」という道を選ぶのか。その謎を解き明かすべく、経済学、特に「ゲーム理論」を専門とする専修大学経済学部の小川博雅先生にお話を伺いました。
「離れる」より「近づく」方が有利になる
――なぜコンビニは密集するのでしょうか。
小川先生:
一言で言うと、競争した結果、その方が利益を得やすいからです。
この現象は、経済学でいう「ホテリングモデル」や「ナッシュ均衡」という考え方で説明できます。
コンビニ2店舗だけの世界を考えてみる
小川先生は理解しやすいように、シンプルなモデルを用いて説明してくださいました。
仮定
- 全長1kmの一本道がある
- 道沿いには人が均等に住んでいる
- どの店も同じ価格・同じ品質の商品を売っている
- お客さんは最も近い店で買い物をする
この状況で、2つのコンビニが出店場所を決めるとします。
直感的には、「ライバル店から離れた場所に出店した方がよさそう」と思うかもしれません。
しかし、小川先生によると、実際は逆です。
小川先生:
もし先に出店した店舗が右側にあるとします。後から出店する店舗にとって最も有利なのは、空いている場所へ行くことではなく、ライバル店のすぐ近くに出店することです。そうすると、自分より左側にいるお客さんをほぼ獲得できるからです。
すると今度は、先にいた店舗も不利になります。そのため、さらに有利な場所へ移ろうとします。こうした駆け引きを繰り返した結果、最終的には両者とも道路の中央付近に集まることになります。

図:小川先生による「ホテリングモデルのナッシュ均衡」の解説図
「ナッシュ均衡」
この状態は、ゲーム理論でいう「ナッシュ均衡」と呼ばれます。ナッシュ均衡とは、「自分だけ行動を変えても、これ以上良くならない状態」のことです。中央に位置している店舗は、どちらか一方だけが移動するとかえって顧客を失ってしまいます。そのため、結果として両者とも同じ場所に集まり続けるのです。
現実のコンビニも同じなのでしょうか?もちろん現実は、一本道に2店舗だけという単純な世界ではありません。
実際には、
- 複数の競合店が存在する
- 道路が縦横に広がっている
- 人口分布が均一ではない
- 商品やサービスに違いがある
といった様々な条件があります。
それでも小川先生は、「人が集まる場所に競争相手も集まる」という傾向は、現実でも共通して見られると説明します。
実際に駅前や繁華街では、多くのコンビニや飲食店が集中しています。これは偶然ではなく、多くの企業が合理的な判断を積み重ねた結果だと考えられるのです。
ドミナント戦略との関係
さらに現実のコンビニ業界では、「ドミナント戦略」と呼ばれる出店戦略も採用されています。これは特定の地域に集中的に店舗を出店する戦略です。
例えば、
- 配送効率が向上する
- 店舗管理がしやすくなる
- 地域での知名度が高まる
といったメリットがあります。
小川先生:
今回のホテリングモデルは、お客さんの取り合いという観点を説明する理論です。
現実には物流や管理コストなど様々な要素も加わりますが、それらを考慮しても密集出店には十分な合理性があります。
なぜ価格競争にならないのか
ここで一つ疑問が生まれます。もし近くに同じ店が並ぶなら、値下げ競争になるのではないでしょうか。
小川先生:
もし店舗が自由に価格を設定できるなら、価格競争が激しくなり、むしろ距離を取る方が有利になる可能性があります。
しかしコンビニの場合、本部が価格を決めている商品が多いため、店舗ごとの価格競争は起こりにくいのです。
価格で差をつけられないからこそ、企業は立地で勝負する。その結果として、駅前などの好立地に店舗が集中しやすくなるのです。
ラーメン店や政治にも応用できる
ホテリングモデルは、コンビニの立地だけを説明する理論ではありません。
ラーメン店の場合
例えば、「どれくらい辛いラーメンを出すか」という競争を考えてみます。極端に辛いラーメンや極端に甘いラーメンよりも、多くの人が好む中間的な味を目指した方が顧客を獲得しやすくなります。
その結果、似たような商品が増えることがあります。
選挙の場合
政治の世界でも同様です。二大政党が選挙で争う場合、多くの有権者から支持を得るために、極端な政策よりも中道的な政策へ近づく傾向があります。
これを説明する際にも、ホテリングモデルの考え方が活用されています。
経済学は「世界の見え方」を変える
最後に、経済学やゲーム理論の魅力について伺いました。
小川先生:
社会の現象は複雑ですが、経済学は前提条件を整理して考えることで、「この条件ならこうなる」という論理的な説明ができます。
もちろん一つの理論だけで現実のすべてを説明できるわけではありません。それでも、複雑な社会の一部分を切り取り、なぜそうなるのかを明確に説明できるところに面白さがあります。
さらに、これから経済学や経営学を学ぶ人へのメッセージもいただきました。

写真:インタビューにお答え頂いた小川博雅先生
小川先生:
経営学や経済学は、結局のところ「人間とは何か」を考える学問でもあります。
人はなぜその商品を選ぶのか。人はなぜ行動するのか。人を動かすには何が必要なのか。
そうした問いを、自分たちと同じ等身大の人間をイメージしながら考えていくことが大切です。
身近な風景の中にも学問がある
コンビニが密集する理由は、単なる偶然ではありません。そこには企業同士の競争や消費者の行動を説明する経済学の理論が隠されています。普段何気なく見ている街の風景も、経済学や経営学の視点から見てみると、まったく違った姿が見えてきます。
「なぜだろう?」という身近な疑問から始まり、社会の仕組みを解き明かしていく。それこそが、大学で学ぶ経済学・経営学の大きな魅力なのかもしれません。
〈クレジット〉
取材/文:経営学部 経営学科 3年 増田丈一郎
編集 :経営学部 経営学科 3年 柴田莉果
※取材当時